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天体観察 果てしないロマンが宇宙にある!
小惑星探査機「はやぶさ」のこと
2010年12月11日(土) (NHK NEWS) spectator:4524
- 燃え尽きる「はやぶさ」その先にカプセルが見える。
(国立天文台はやぶさ観測隊撮影)
12月8日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は金星探査機「あかつき」が金星の周回軌道に乗るのに失敗したと発表した。
しかし、軌道を修正すれば6年後に再チャレンジできるという。
是非、成功を祈りたい。
今年は、4月には水が存在する小惑星が発見されたり、6月には小惑星からサンプルを持ち帰った探査機「はやぶさ」の快挙があり、
さらに、11月には地球外にも生物がいる可能性が証明された生命体の存在の発見と、我々の生命の根源に関するニュースが相次いだ。
なかでも強く印象に残ったのが月以外の天体からサンプルを持ち帰るという「はやぶさ」の世界初の快挙である。
それは7年間に及ぶ不屈の精神で不可能を可能にした人間と機械の枠を超えたプロジェクトであり、その健気に応えて任務を無事果たし、地球に帰還する際自らはバラバラになって燃え尽きる「はやぶさ」の映像は感動をもって人々の胸を打った。
もはや探査機というよりひとつの人格を持った個体のその壮絶な最後を見守った感がある。
後日、満身創痍で任務を達成し、目的のカプセルを地球に届けるのを見届け、自らは燃え尽きるまえに、地球を愛おしく見つめるようにして撮ったかのような一枚の写真が発表された。
その1枚の写真も多くの人々の胸を打った。
その「はやぶさ」とJAXAとの苦難と不屈の精神の過程を今一度振り返ってみたい。
2003年5月に打ち上げられた「はやぶさ」は2年後の夏に約20億kmを飛行して小惑星「イトカワ」に到達。
表面を観測し、サンプル採集を試みて、今年の6月13日、7年間かかって約60億㎞の長旅を終えて地球に帰還した。
だが、その道のりは想像を絶する多難の連続であった。
「はやぶさ」(第20号科学衛星MUSES-C)は打ち上げから4か月後に4基ある電気推進によるイオンエンジンの内1基が故障。(このイオンエンジンによる探査機も世界初である。)
同年10月末には観測史上最大規模の太陽フレアに遭遇、太陽電池の破損で出力低下。小惑星イトカワへの到達時間を遅らせることになる。
翌2004年7月には3基のうちの1基の姿勢制御装置が故障。2基で姿勢を維持し飛行する。
ようやく同年9月にイトカワから20㎞の距離で静止軌道に乗りランデブーに成功。イトカワのラッコのような形状を鮮明に捉えた。
同年10月にもう1基の姿勢制御装置が故障。化学エンジンを併用して姿勢を制御する。
何回かの降下を試みた後、2005年11月についにイトカワ表面に着陸した。
このときサンプル採集のための装置はうまく稼働しなかったが着陸の衝撃で舞い上がった塵が回収された可能性が残った。
2回目のタッチダウンのとき、離陸の際燃料が探査機内部に漏れた。
弁を閉鎖し漏えいは止まったが燃料が気化し温度低下でバッテリーが放電。
電気系統が変調をきたし、姿勢制御の推力が低下。姿勢制御が乱れた。
それにともなって通信が途絶する。
翌日ビーコン通信は回復したが、緊急の姿勢制御のソフトウエアが作成され、イオンエンジンに使用するキセノンガスの直接噴射を行うことで姿勢制御に成功する。
この機知に富んだ数々の機能回復の手際のよいプロセスがすごい。
12月には再度燃料漏れが発生。姿勢制御が乱れ、アンテナを地球に向けることが出来ず通信が途絶えた。
つまり、完全に行方不明状況になってしまったのである。
「はやぶさ」には受動的に安定するシステムが搭載されていて自ら回復の努力をするように設計されていた。
2006年1月になってビーコン信号が回復し状況が明らかになった。
姿勢制御不能によりソーラーパネルは太陽の方を向いていないため、完全に太陽電池の電源は落ちていた。
搭載したリチウムイオンバッテリーも放電し切った状態。しかも11セルのバッテリーのうち4セルが使用不能になっていた。
化学エンジンは燃料を使い果たし、酸化剤も漏えいし燃料残量はゼロであった。
イオンエンジンのキセノンガスのみ約40㎏残っていることが判明。これが頼みの綱になった。
同年2月になってデータの受信が回復。3月に軌道の推定に成功する。イトカワから1万3000㎞の位置にあることがわかった。
機体の安定と充電を試み帰還に向けて試行したがとうとうリチウムイオンバッテリーは11セルとも全部使用不能になってしまう。
さらに、残った2基のイオンエンジンの1基も停止、1基のエンジンのみで帰還することになる。
そのための姿勢制御プログラムの書換えを行い、生き残ったシステムを最大限利用して姿勢制御を行い、それで地球帰還に向けた慣性飛行を続けたのである。
電源は太陽電池パネルしか頼めず、パネルが太陽方向に向いていないと即座に電源が落ちてしまうという状態での飛行を強いられていた。
それをコントロールするのに昼夜を問わず気が抜けない制御体制が続く。
あと地球帰還まで数カ月というところでついにイオンエンジンの寿命が尽きた。
2009年9月一基のイオンエンジンの再点火に成功。ようやく動力飛行を再開することができた。
これは故障した二つのエンジンのスラスタの使える部分同士をつないぐという離れ業でイオンエンジンを復活させたのだった。
プロジェクトは決してあきらめることはなかったのである。
だが予定より長期に及んだ過酷な状態での搭載するコンピューターも異変を起こしはじめていた。
そんな状況のなか、地球帰還に向けて精密誘導に伴う加速の補正、詳細な調整を行いながら慎重に正確な誘導がなされていった。
後にNASAから賞賛された見事なまでの点ポイントの誘導と正確な制御がその成否を分けた。
2010年6月13日。「はやぶさ」は約60億㎞を飛行し7年ぶりに地球に帰ってきた。
そしてイトカワのサンプルの入ったカプセルの切り離しに成功した後、最後の力を振り絞るように向きを変えて大気圏突入前に地球の姿を数枚撮影した。
その内の最後の1枚だけがおぼろげな地球の姿を写し出していた。(右の写真)
大気圏に突入して粉々に粉砕する直前に地球をその目に焼き付けるかのように…。その画像はまるで涙で霞んでいるようにも見えた。
そこには最後に「はやぶさ」に地球を見せてやりたいとのJAXAの技術陣の思いがあった。
それは、もはや一機械としてではなく同志としての「はやぶさ」に対する敬愛のレクイエムでもあった。
こうして「はやぶさ」は母親が子を解き放すようにしてカプセルを無事に地球に帰還させ、見事な最後を飾ったのである。
今年の11月にそのカプセルからイトカワの微小なサンプルが発見されたことがようやく発表された。
人類は世界で初めて、月以外の太陽系の天体の生のサンプルを手に入れたのである。
それは地球の大気圏との摩擦で化学変化している隕石などと違ってイトカワの表面のサンプルが太陽系が誕生したときの状態を留めていることで、その誕生のメカニズムの研究が大きく前進するということだ。
その意味で、この快挙は世界初の偉業となった。
このような素晴らしい結果を打ち立てたJAXAの技術陣はじめ日本の宇宙科学技術陣と見事に任務をやり遂げた惑星探査機「はやぶさ」にどんな苦難にあっても決して諦めない不屈の精神を見いだした人も多かったであろうし、勇気をもらった人も多かったであろう。
この立派に使命を果たした日本の科学技術と探査機「はやぶさ」の功績を誇らしく思う。
その成果に報いるべく今後の研究結果において最大限の価値を得られんことを期待するものである。
また、こういう15年にも及ぶという壮大で夢のあるそして日本の誇りとなるような事業は国を挙げて応援するべきである。
2010年という年は、太陽系の成立ちの糸口がさらに広がり、また、生命の根源に迫る研究結果に大きな期待が膨らんだ一年でもあった。
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