重苦しい憂鬱
生きものたち かけがえのない「いのち」のかたち!
重苦しい憂鬱 ~名もなき小さきものたちよ!~
2011年8月29日(月) spectator:8658
- 福島第一原発第3号炉 これが水素爆発か?
- 福島第一原発第1号炉の爆発
すべてはここから始まった。
3,11。空前の大震災と三陸地方を一変させた大津波。その直後に起こった福島第一原発の爆発事故である。
即日、アメリカは自国民に原発から半径80km以上離れるよう退避勧告を出した。
しかし日本政府は半径3km、10㎞、20km、30kmと小出しに指定範囲を広げてゆき、その都度相応の対応を求めた。
なかでもひどいのは、避難するかしないかは住民に任せるという無責任なものだった。
今となればどちらの判断が適切であったかが明白である。
東京電力および我が国の政府はパニックを避けるためとして情報を隠ぺい又は矮小化し、初期の適切な対応を怠ったために、国民の不信と取り返しのつかない災禍を日本中にもたらすことになる。
政府は「直ちに健康には影響がない」を何度も繰り返した。
そして原子炉の状態も収束に向かっているかのような印象を与えるコメントに終始した。
それがしばらくしてから実態が明らかになってゆく。
予想を超えた広範囲の地域から、水道水、農産物、家畜などに規定以上の放射性物質がつぎつぎに検出されていったのである。
政府の無策・無能ぶりもひどいが、新聞、テレビも政府の発表を右から左に流すだけで、しかも内容も各社横並びの同じような報道がされ続けた。
マスメディアの記者クラブの実態も明らかになるとともに、その信頼も地に堕ちた。
ずっとたいしたことはないとしてきた報道も後になって驚愕的な真実を明らかにする。
メルトダウンは津波による電源喪失により十数時間後に起きていたことを事もなげに発表した。
拡散した放射性物質(セシウムのみ)の総量もヒロシマ型原発の168個分と保安院が試算し発表したのも5カ月もたってからだった。
それに未だ2号炉、3号炉の内部の状況さえわかっていないのに終息に向かっているとの順調さをアピールする無神経さ。
初めから関係者はわかっていたはずだ。
今も正確な情報など国やマスメディアからは知る由もない。
むしろ外国のメディアを見る方がそのギャップがよく見えてくる。
マスコミが真実を伝える努力を怠り、体制を批判する機能が麻痺しているとしたらその影響力の大きさゆえに恐ろしいことだ。
70年前になるが、太平洋戦争において「大本営発表」というのがあった。
天皇直轄の独立機関としての「統帥部」という組織があり、そこで国の作戦が作成され、広報の一元化もなされ、マスメディアも右に倣えの報道を繰り返した。
戦局が日本に圧倒的に不利にもかかわらず日本軍が大勝利を上げたと国民を欺いた報道を敗戦まで続けたこととその本質は変わっていない。
現代においても同じ過ちをまた繰り返しているのは報道機関だけではない。
あのときも、敗戦後、統帥権の中枢にいて東京裁判をまぬがれた参謀本部の人間で自ら責任らしい責任をとったものはいない。
政治家もそうだが官僚の責任を取らないという体質は、昔陸軍、今官僚とまで揶揄されて久しい。
情報を操作し、誤った判断で国民が困窮していても人間的配慮や責任を感じない官僚の無神経さにも、御用学者の無責任さにも何ら70年前の日本のそれと変わっていない。
口先だけの国政の信頼度はすでに国民と大きくかい離してしまっている。
瓦礫の処理、義援金の分配など、ありとあらゆるものの対応が遅すぎるのも周知の事実だ。
被災者は、先の見えてこない不安と長期におよぶストレスで身心とも著しく蝕ばまれている。
誰もこのことに対して早急の改善を促し、率先して事に当たり、また失策の責任を取ろうとする政治家、官僚は未だ見えてこない。
ましてや、そこに責任逃れのための何かしらの圧力や言論統制が行われているとすれば、これはもはや無能・怠慢などではなく最悪の国家犯罪である。
いや、国家機関もそうだが時代の閉塞感のせいなのか、日本人全体も、そしてあらゆる業界の体質もおかしな変質をきたしているのように思われてならない。
原発事故の収束の過程や、怒りもせず、規律正しく妙に従順な日本人に外国からは奇異に映っていることだろう。
いつか新潟県内でも必ず見つかると思っていた。
ホットスポットと呼ばれる地帯である。
八月下旬。新潟県十日町市に異常に高い放射生物質があるエリアが発見された。
このことはもはや日本全国、くまなく汚染調査の必要があることを意味している。
しかし、あらゆる調査や検査が最重要なはずなのに国が本気で取り組む姿勢が感じられないのはどういうことだ。
下図はドイツ気象庁が作成した放射性物質拡散のシュミレーションである。
ほぼ日本全域、いや韓国や中国、ロシアにも放射性物質の拡散が広がっていることが想像できる。
- ドイツ気象庁による放射性物質の拡散予想図
史上最悪にして最大の未曾有の災害が福島原発事故だということはもはや疑う余地がないことを直視しなければならない。
何にもまして、これからは正確な情報を隠さず速やかに開示し、行政と国民が共有してゆくことが急務である。
危機的状況がわかっていたのに、パニックを心配して被害状況を偽ったり、子供の内部被爆が明らかになっても尚有効と思える救済方針さえ出せない政府の態度をどう理解すればいいのか。
福島県民はじめ日本中が欺瞞の渦中におかれている。
これを演出しているのが行政であり、電気事業界を取り巻く産業界であり、そして報道機関である。
山野や空をくまなく汚染し、そして海洋汚染にも今後深刻な影響が出てくることは明白で、このままでは国益を大きく損なう世界的なバッシングに発展することに他ならない。
そして、人間も、名もない小さい生き物はじめあらゆる生物も今後何十年とこの見えない敵と闘ってゆかねばならないのである。
総括や反省もせず、いつものコップの中の権力争いを見せつけられている政治にあって、我が国の名もなき小さな生きものの住む自然や子供の命のことを真剣に考えている真の人間性を持った為政者や権力を持つ人はその中に何人いることか。
人間の想像力の欠如は日本を深刻な放射性物質の汚染発生国にしたことを許してしまった。
小手先の対処療法などではなく、全力を挙げて真っ先に本気でこの解決に向かわない限り、もはや隣国のことを嘲笑したり批判などはできまい。
日本の重苦しい時代の憂鬱を作り出している構図が極めて深刻な状態の中で次々に焙り出されている現状に、先祖の尊い血で伝え守られてきた日本の美しい山河や海が泣いている。
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