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木のいのち

 生きものたち          かけがえのない「いのち」のかたち!

「木」 の いのち

     2011年2月3日(木)         spectator:4501

  • 大蔵山のブナの大木

大蔵山のブナ

ヒノキの林

朝、起きがけに聞くラジオでヒノキのことを言っていた。
桧を縦に割り、芯の部分に火をつけると芯の赤みを帯びた部分が勢いよく燃えるのだという。それも生木がである。
ヒノキという名前は「火の木」からきたのだろうか。

桧は水にも強く腐りにくいことと、何より驚異的な持久力を持っていることは知られている。

法隆寺の回廊

現在のような木造建築の技術は飛鳥時代、百済からもたらされた仏教建築から始まった。
飛鳥時代の建物は現存しないが、世界最古の木造建築は世界遺産の法隆寺である。

現存の堂宇は諸説はあるが7世後半から8世紀に建てられたとされ、使用している建材が吉野の「桧」である。
その最古の部材は590年ごろに伐採されたことが最新測定法で判明している。

法隆寺の五重の塔

千年生きた木で造られた建物は千年持つといわれている。コンクリートの寿命はせいぜい百年でしかない。

幸いにも世界最古の木造建築は幾多の戦禍を免れてあの美しい伽藍の姿を1300年以上も保ち続けてきた。
法隆寺の昭和の大修理の時、カンナをかけたとき、桧独特のかぐわしい香りがしたという。
桧は二千年以上その寿命を保ち、なお生き続けているのである。

法隆寺の五重の塔

お寺のランドマークは五重塔である。

これはインドでお釈迦様の骨を納めた土や石造のパゴダ(ストゥーバ)がシルクロードを東進する内、中国で漢の時代に木造の塔になって朝鮮半島に伝わり、6世紀初めにその建築技術が仏教とセットで日本に入って来た。

国内の三重塔や五重塔は創建から幾度の大地震に耐え、ほとんど現在まで倒壊したものはないという。
塔の中心を貫く「心柱」と構造体は緊結されていない構造で優れた免震性能を持つ。

この技術が現代の高層建築の構造設計に取り入れられ、超高層ビルの建築が可能になった。世界一の高さとなる東京スカイツリーも構造を突き詰めて行った結果、古代からのこの伝統技術と同じになったという。

薬師寺西塔断面図

桧は日本と台湾にしか存在しない。世界的に稀有で貴重な樹木である。同じ緯度でも中国、韓国にはない。

飛鳥時代の日本には樹齢1000年以上の桧があった。しかし現在の日本では木曽の桧が樹齢450年とこれが最高齢とのことだ。台湾にはまだ樹齢2500年の桧があるという。

薬師寺の西塔の心柱は台湾桧で四本継いで建てている。もう三十数メートルの心柱になるような桧は日本にはないのである。

飛鳥や天平の堂宇の建立では、製材された材木を買うのではなく、山全体を買った。

奈良の宮大工だった西岡常一棟梁の話である。

「山ごと買った木をどう生かすか、その山の南に生えていた木は堂塔を建てる時に南側に使い、北の木は北に使い、西の木は西に、東の木は東に使えということです。法隆寺の飛鳥建築でも薬師寺の白鳳建築でも口伝通り、堂塔の南正面には節の多い南の木、北側には節の少ない木が使われています。こうした知恵が千三百年の命を持たせているようです。」
「法隆寺の解体修理をした時、室町時代の建造物も六百年しかたっていないのに、傷みがひどく修理しなければならないほど傷んでいました。節のない木をていねいに組んでいるにも関わらずです。」

桧の葉と実

「木を買わず、山を買え」というのは製材されてから買うのではなく自分で山に行って地質を見、環境による木の癖を見抜いて買えということなのだという。

山の南斜面に生えた木の場合、この木の北側には枝が少なく、あっても細くて小さい。もし、西からの風が強い場所だったとすると、南側の枝は東に捻られるため、元に戻ろうとする性質が生まれる。このような環境による木の癖を見抜いて適材適所に使う。
「木は生育の方位のままに使え」と口伝されているのである。

これは、ひと山全体の木の命をひとつの建物に移し替えるという作業をしていたことになる。

千年以上経ても狂いのない技術

西岡常一棟梁は、薬師寺西塔再建のとき、現代技術の構造計算で鉄材で補強することを説く学者に「いらんことをせんでいい。昔からの伝統に則ってやればいいのや。」とはっきり主張し、そのようにした。

幸いにも薬師寺には「凍れる音楽」と賞された国宝の「東塔」という手本があった。
千数百年経て厳然と建つ塔の先人の技術を謙虚に学び、また千年先を見据える信念があってこそ言える言葉である。

薬師寺の西塔は東塔より1,7メートル高く造られた。西岡棟梁は五百年もすると塔の重みで東塔と同じ高さになると言いきった。

西岡常一氏という名工は日本の千年先を見ていた数少ない日本人の一人だったのだと思う。

日本には、伊勢神宮の二十年ごとに建て替える伝統がある。これは木工の伝統技術を絶やさないよう継承する技術のリレーの意味もある。

ナツハゼの生花

松の生花

先人は、日本の風土、自然、木のことに精通し、中国でも韓国でもない日本独自の文化を築いてきた。

現代は昔に比べ急激に文明は進歩したものの、果たして文化は進歩したといえるのだろうか。

本当の豊かさとは何か!

それを問い直すためにも西洋文明と日本文化の見直しが必要な時期に来ている気がしている。


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