北 岳
山と自然 一歩一歩登った山々に美の原点がある!
北 岳 標高3193m
1997年7月3日(火)~6日(日) spectator:2134
- 肩の小屋より
日本で二番目に高い山と聞かれて「北岳」と即、答えられる人は少ないだろう。
南アルプスの主峰にして高山植物の宝庫である。キタダケソウ、ミヤマハナシノブなど、今回はその妖精たちに逢いに行くのが目的だ。梅雨の中休み、天候の回復期を狙って出発する。
この年もまだ上越と信州中野間の高速道路は通っていない。松本を過ぎ、左に諏訪湖を見るころに八ヶ岳が近くなる。
韮崎ICで高速道路を降りる。いよいよ山道に差し掛かると深い深い谷の断崖に作られた険しい断崖の切り立った道を行く。
自宅を12時30分に出て、登山口の広河原に着いたのは午後7時を回っていた。車の窓にカーテンを付け、いつも寝ている布団を敷く。意外と快適なこの上野ホテルで車中泊。
7月4日、いい天気だ!
午前5時15分出発。野呂川にかかるつり橋を渡るとうっそうとした原生林の樹林帯の登山道になる。オオシラビソの木の香が何とも芳しい。
樹林帯を抜けた6時30分、早くもミヤマハナシノブが出迎えてくれた。なんと可憐な花だろう!
いくつかの崩落地帯を慎重に行く。沢をいくつか超えて行くにつれ、足元にはグンナイフウロやソバナが美しく咲いている。
10時近くに大樺沢二俣に着く。
ここから、右俣コースを行く。高山植物が多い草の中の道を登る。まるでお花畑の中を行くようだ。
平坦な場所から北岳の特徴であるバットレスという大絶壁の頂点に人の姿も見える。
午後1時23分、広い草すべりの草原を登りきると小太郎尾根に出た。
展望が広がった。甲斐駒ケ岳、鳳凰三山。反対側に仙丈ガ岳。そして富士山の頭の先が見えている。
急登から解放され、なだらかなハイマツの高山帯をゆっくり進む。高度が上がるにつれて富士山もその全容を徐々に見せてくる。
岩場に取りついた時思わず歓声をあげた。一面のハクサンイチゲが咲き乱れ、風から身を守るように一様に背丈を低くして激しく揺れている。
同じ種の植物でも環境に適応してけなげに生きているのだ。
かなり疲れきって肩の小屋に3時20分に到着。
夕方まで、花や景色を撮影してまわる。刻々と変化する風景を眼下に見ていて飽きることはない。
北岳の影が富士山のほうへ伸びるころ、富士山の三合目あたりになるだろうか、グリーンフラッシュという上下がピンク色の緑色の帯が現れた。感動だった。
夕焼けに染まる山々を楽しんでから小屋に戻った。
7月5日、天候が一変していた。
濃いガスで視界が利かず、それに強烈な風が吹いていた。午前中50mも歩かないうちに呼吸が苦しくなり小屋へ引き返す。酸欠のような虚脱状態。それほど風が強かったのだ。
一日ストーブの周りでまどろんでいた。他の登山者も出て行く人も登ってくる人もほとんどいない。
夕方、風が少し弱くなった。濃いガスは相変わらずだ。
視界は利かないが山頂をめざすことにする。初めて行く誰もいない登山道。岩に付けられたペンキの目印だけがたよりだ。不安もしばらく進むうちになくなっていた。
とうとう手探りながらピークと思われる所に立った。その先はどうなっているのか全く見えない。強引にこれが頂上だと決めて下山することにした。
後から考えるとあのバットレスのへりを強風の中、かなりの高度感のあるところを歩いていたのだ。
見えないということは恐ろしいものである。
こんなに高山植物が多彩で群落する山は他にあるのだろうかと思わせるほどたくさんの植物を見ることができる。
険しく苦しい道のりも、お花たちに元気づけられるようで、ほんとに気持のよい名山である。
いい山はいつも去りがたい気持が募る。
今回は特にそうだった。
梅雨明けにもう一度来ようというということになった。
それも、もうすでに帰りの車の中で決めていた。
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