プロローグ
上野 恒洲 プロフィール
プロローグ
月日は百代の過客にして行きかう年もまた旅人なり
松尾芭蕉の「奥の細道」の書き出しのように、
振り返るとこの数十年があっと言う間に過ぎていた。
そして、時代も足早に変わってゆく。

芭蕉は奥州の旅から帰ると、嵯峨野の向井去来の庵
(落柿舎)に逗留し、大覚寺の参道が嵯峨の細道と
いわれていたところから、その名著の題のヒントに
なったと伝えられている。
嵯峨野 大覚寺は桓武天皇の第二皇子、52代嵯峨天皇の離宮として造営され、千二百年の歴史がある。
私は、その大覚寺に華道総司所を置く「いけばな嵯峨御流」を学んできた。大覚寺の長い悠久の時間が醸し出すその場の空気感も私の師であったともいえる。
( 春、大覚寺寝殿にて) そして「いけばな」を通して「いのち」の意味を考え
るようになっていた。小さな純粋な花から学んだこと
は、実に大きい。
「いのち」は自然から'宇宙''へとつながっており、
さらに、生物だけではなく残るべくして残っていく
「モノ」にも命が宿る。
これから人間は急速な価値観の変化の中で、この世の
中と、どう関わって生きてゆくべきなのか。
また、何をすべきなのか。
そして、何を目的とするのかが問われている。
そこから、純粋な「いのち」の持つ意味が私のテーマ
となり、それが、私のライフワークとなっていった。